植田真理恵、2014年にメジャーデビューした女性シンガーソングライターである。
福岡は久留米出身で現在は大阪を拠点に活動している。
最低限度の情報を提示したところで、彼女が2020年に世に送り出した名盤「ハートブレイカー」を聴いてもらいたい。
アルバムトレーラーを視聴するだけでも、個性的な歌声で多様なジャンルの曲を歌いあげていることが分かるだろう。
長らくYouTubeで活動を追っていた私からするとこのアルバムは衝撃的な作品であった。
内向的でダークで怨念の域ともいえる力強いボーカルを以てして一曲一曲が丹念に作りこまれている作品だ。
最初に、私が彼女の楽曲を知ったのは2016年発表の「ふれたら消えてしまう」だったと記銘している。
爽やかなサウンドで、彼女のイメージ像もそれに近い形で、天真爛漫なMVが作られ、今でも彼女のYoutubeチャンネルでは最も再生されている(2024年4月で350万回再生)
ところが私にはそこまで刺さらなかった。
同チャンネルでその後視聴した「センチメンタリズム」がむしろ私の心を掴んだ。さっきのMVで見せていた天真爛漫さはどこへやら、彼女の奥に潜むダークで強い意志が直接伝わってくる。
“会いたい。” ばっかりのラヴソングが
宗教のようにはびこる世の中で
感傷的な僕の歌も
もうおおかた同じようなものだね
もう曲も歌詞もロック過ぎる。これだよ、これ。と何様だと言われかねない態度で曲を繰り返し聴いた。
中学時代はaikoさんとか、YUKIさんとか椎名林檎さんとか、もうとにかく強いパワーを持っている女性。あとはCharaさんとか安藤裕子さんとか、みんなそれぞれのカラーが出ていて、歌いだしたらすごいじゃないですか。そういう人たちに憧れていて。
【インタビュー】植田真梨恵、デビュー作発表「全部をそぎ落としてもいいというのが今の私のキーワード」 | BARKS
BARKSのインタビューで過去に語っているが、植田真梨恵はとにかく強いパワーの女性にあこがれていた。
彼女の曲も間違いなく、一聴するだけで「植田真理恵」だとわかる強さがある。
その強さがデビュー6年経ち凝集され、作られたアルバムが「ハートブレイカー」だ。
17曲も収録されており、彼女のアルバムでは最多収録数だ。それだけ創作意欲が強い時期であったのだろう。すべての曲を取り上げることはしないが、何曲か紹介する。
1曲目「heartbreaker」
表題曲。静かなピアノの伴奏に歌唱を載せ始まるが、途中から壮大なロックサウンドに展開し、最後はピアノの音で収束する。起承転結がしっかりしていて、もはや芸術作品だ。椎名林檎の「ギブス」を彷彿とさせられる構成だが、より繊細なボーカライズされている点が植田真梨恵たらしめている。
7曲目「眠れぬ夜に」
サビがエモーショナルなバラードだ。さあ涙を拭いてと、このアルバムでは珍しく前向きな歌詞だ。サビに入るとともに壮大な景色が眼前に広がるような解放感がたまらない。
9曲目「スルー」
このアルバムを象徴するダークなロックナンバーだ。サビでは誰にも必要とされていない、と歌い、人から”スルー”される感情を歌い上げている。これはぜひ社会派的なMVを作成いただきたい。
12曲目「バニラフェイク」
疾走感あふれるパンクロックナンバーだ。ボイスチェンジャーで声を歪ませ、ダークな植田真理恵の真骨頂といえる。植田真理恵リスナーはアイスクリーム溶けてるよ、と何度気づかされたことだろう。
15曲目の「IN TO」
名曲中の名曲だ。あてもなく歩いて朝を待とう、という歌詞から始まる通り、夜明けの美しい情景を描いた曲だ。夜明けというその短くも美しい時間を切り取り保存したかのような曲に仕上がっている。夜明けの街の髪を撫でる風はなぜあんなにも心地良いのだろうか。そして日が昇ってしまうとそれらの情景は消え失せてしまう儚さ、といったセンチメンタルな感情が伝ってくる。
他にも取り上げたい曲はたくさんあるが、とりあえずアルバムを通しで聴いてみれくれ。最後に、デビュー6年目にして至高のアルバムを世に送り出した植田真理恵氏にこの上ない賛辞を贈る。
2022年発売のアルバム「Euphhoria」も「ハートブレイカー」と同路線のダークなアルバムで「ハートブレイカー」が刺さった人にはおすすめだ。特に「最果て」「黎明」が好みだった。